探してた本

開口健のエピソードで、特に印象に残っている話がある。
八王子の山奥の部落に住んでいる老人が、豚を一匹密殺してそれを掘った穴に入れて焼いて食おうと言うエピソードである。

なぜこの話が印象に残っているかは分からないが、どの本に載っていたのかは分からなかった。
なので、本屋の開口健文庫コーナーでは、いつもパラパラしながら探していたが見つからなかった。

所が、先日ふらりと入った古本屋の芸術コーナーを見ていると、なぜかそれらの本の上に開口健の文庫が数冊置いてあった。
タイトルは白いページ、全三巻である。
ふとこの本ではなかったかな?と思い、ペラペラめくると、あった。
三巻目の、消えるの項目だ。
老人の名は、きだみのると言う。

読んでいる内に、この本を手に入れたのはトリノに住んでいる頃であったことも思い出した。
トリノには、日本人とイタリア人の夫婦がやっている本屋があり、その店の奥には、トリノの日本人在住者が売ったり買ったりする日本語の本があるのだった。
そこで手に入れたものだったのだろう。
そして読んだあとはまた元の場所に売ったのである。

10年以上ぶりに読んだ内容は、結局豚一匹は手に入らず、それでも巨大なアバラ肉をモリモリ食べると書いてある。
他にも深川でドジョウ鍋を食べる描写や、豚の赤ん坊の刺身など(ここで詳しくは書かないが)、読み出したらやめられない本だった。

さながら読むことで、色々不思議な旅ができる本であった。