柴田錬三郎選集 (6) 剣鬼

柴田錬三郎選集 (6) 剣鬼

トリノの本屋で池波正太郎を探したのですけど、もう読んだ本ばかりになっていました。
その代わり藤沢周平がまだ結構残っているな。

柴田錬三郎の小説は読んだことがなかったですけど、時代小説物だということはなんとなく知っていました。しかし眠狂四郎シリーズの作者だとは知らなかったです。まだ映画も見たこと無いのですけど・・・・・。この本は、不気味な題名だなと思い手に取ると、表紙の絵も不気味でした。そして読んでみると、やはり中身も題名、表紙絵に違わず、すさまじい話ばかりでした。アウトローな剣豪たちのすさまじい生き様の短編集です。

沈黙 (新潮文庫)

沈黙 (新潮文庫)

藤沢周平と間違えて、遠藤周作を買ってしまいました、と言えば面白いのでしょうが、事実まあそんな感じです。内容はキリスト教禁制になった徳川家光時代に、日本で捕らえられたポルトガルの宣教師が拷問の果て信仰を捨てることを誓い、その後の消息がつかめなくなったとの情報がポルトガルにもたらされ、恩師の行動を信じられない若い司祭たちが日本に潜入して、まだ取り残された日本信者のために宗教活動をするという話です。話は読んでいくうちにどんどん悲劇的な苦境に立たされていく司祭の、信仰に対する精神の変化がとても重たい小説でした。

そんな訳で、二日も家に篭って立て続けにこんな小説を読んでいると、気が滅入ってきました。それで金曜にそろそろ日本に帰るためのチケット代を聞きに行ったのですけど、トリノはここ二日良い天気が続いていて、春らしく暖かくなってきました。ちなみに今回の日本に帰るチケットは二枚の予定です。一枚は俺ので、もう一枚はクラスメートのミケーレの分です。このまま行くと、奴の念願の日本上陸が達成しそうです。いずれ日本に住みたいと言っているけど、どうなるかな?一度ミケーレに、日本に住むなら日本語覚えたいか?と聞いたとき「ううん、まあ、そのうち学校にでも・・・」と歯切れの悪い答えが返ってきました。俺に「もっとイタリア語勉強しろ」とか言ってるけど、日本に住むなら日本語覚えなきゃ。

天城峠 (集英社文庫)

天城峠 (集英社文庫)

池波正太郎ですけど、時代小説じゃないです。初期の頃の短編集みたいですけど、内容は戦後の日本、つまり作者が小説を書いてた時代のものですが、時代設定が変わっても本質は池波正太郎の時代物と同じだと思いました。しかしこうやって作者の生きた時代の話を読むと、実体験のようなリアリティがあり、なるほどこういう世間を見てきたのかと、と思いました。それがのちの時代小説に投影され、その時代の人々を描く下地になっていると思うと、今も昔もさほど代わりはないのかなと思います。

しかし一つ分からないことは、何故その後作者は時代小説を書くようになったのかということです。作者がいまも昔も人の世はさほど変わりはないという気持ちを持っているかどうかは知らないのですが、もしそうなら、そこから逆説的に時代小説を書くという行為がまだ良く理解できません。それとあと、最近の俺が選んで時代物ばかり読むことも良く分からないです。



パスクアは日曜ですが、その翌日の月曜をパスクエッタと言い、この日も祝日のようです。それでパスクエッタにクラスのマッテオが、地元のビエッラで友達と昼飯食うから来るか?と言うので、のこのこ出て行きました。イタリア人たちは、パスクエッタで友人たちとバーベキューでもして過ごすのが一般的らしいです。

ビエッラは、トリノのからミラノ行きの電車で東に向かい、途中の乗換駅サンティアで乗り換え、そこから北に行ったところにあります。ここからもっと北に行くと渓谷の土地ヴァッレ・ダオスタ、更に北に行くとアルプス山脈、越えてスイス、フランスとなります。サンティアから乗り換えると、退屈な北イタリア平野の景色が変わって、起伏のある風景へとなって行きました。

終着駅に着くとサングラスをしたマッテオが向こうのホームに突っ立っていて、俺に気付いているのかどうか分からないような感じで、客が降りたこっちのホームを見ています。手を上げてみると、向こうの手も上がりました。

その後、マッテオの車でビエッラの中心に行って、くるっと一回りすると「少しだが、これで大体ビエッラの中心は終わりだ。小さい街だよ」と言ってました。まあそうは言っても、マッテオはこの街が気に入っているようです。

その後、マッテオの家によって両親に挨拶してから、予定より時間が遅れていると言うことで、急足でマッテオの友達を拾って道を走っていると、抜こう側から黒い車が来て、そのままわき道に曲がって行くのを見てマッテオが、「あれはマウロの車だ」と言って、そのまま黒い車についていきました。窓からは、こっちに向かって中指と薬指を折った手が突き出て振られています。マッテオに、何だ?あれは?と訊くと、「ロックンロールだ!」と言いました。マウロはベーシストとして働いているのです。

いくつかの起伏のカーブを越えて、山奥に行くと一軒の家に着き中に入ると、入り口からでかい犬が二匹出迎えをして、庭にマッテオの友達たちがいました。マッテオにこの家の人たちも友達か?と聞くと「いや、知らない」との答えでしたが、まあでもみんな人が良く、特にマッテオの友達マウロは痩せこけたジェームス・ディーンと言った風貌でしたが、中身はネジが一本飛んだような面白い男でした。普段は二つのバンドを掛け持ちしているベーシストですが、今日のためにダビデ像のエプロン(エプロンに胸から太ももまでダビデ像の裸体がプリントされていて、その部分だけヌードのように見えるエプロン)を用意してきてご機嫌です。

しかし一つ気付いたことに、俺の言っていることを他の人が理解してない時、マッテオが通訳すると言う奇妙なシステムが出来上がっていることでした。どうも俺の周りのイタリア人たちは俺の奇妙なイタリア語に慣れてしまって、俺の言っていることがなんとなく理解できるようになり、それで日常会話が通じているようです。

そして昼飯の後しばらくしてからその家を辞退して、今度はマッテオの彼女サラに会いました。どうやらマッテオは、この前破局した彼女とよりを戻すことに成功したようです。サラは別のグループと昼飯を取っていたようですが、なんかマッテオが車で俺にビエッラを案内すると言うと合流するとことになったみたいです。初対面の俺にも自然と打ちとけた感じの明るい彼女ですが、気分に二面性があるらしく、それにマッテオは手を焼いているようです。その後、マッテオが「中心地と旧市街地、どっちが見たい?」と言うので、旧市街と答えると車は中心地から見上げるところにある丘へ行きました。

まあ旧市街地と言っても小さいもので、ちょっと歩くとすぐ見晴らしの良い端の橋まで来ました。そこから下を見るとビエッラの街並みが集まっていて、左右には街を抱え込むように丘陵が囲み、後ろを振り向くと高い峰の山が迫っていました。ビエッラは昔、毛織物で栄えた街でスポーツメーカー フィラの工場もここにあるらしいですが、今は中国産に押され、なかなか芳しくないようです。あとビールもイタリアでは有名なブランドがあり、山の麓で水が良いからかなと思いました。そういえば、渓谷から街に流れてくる川は急流で綺麗に澄んでいて、トリノの淀んだポー川はえらい違いだと思いました。見ようによっては、日本の山間の風景と良く似ているような気がします。

そんなこんなで、夕暮れにはビエッラを引き上げて電車でトリノに帰ったのですが、マッテオはまだビエッラに残って、水曜に戻ると言ってました。久しぶりにトリノの外に出たけど、電車から見るイタリアの夕暮れの風景と日本の夕暮れの風景はあまり変わりが無い気がして、やっぱり電車に乗って遠くに行くのは良いなと思いました。ちなみに昼間、俺にマッテオの両親が「今日は泊まっていけ」と言うのに、マッテオが歯切れ悪く「明日俺早いんだよ」と言っていたのですが、どうやら本音はサラとの晩飯が気にかかっていたようで、それが分かるとなるほどと合点しまして、邪魔者はとっととトリノに戻ることにしました。


で、いま 1ユーロ160円て・・・なによ。

所で、 紀章先生都知事選出たんですか?