輝ける闇 (新潮文庫)作者: 開高健出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1982/10/27メディア: 文庫購入: 9人 クリック: 44回この商品を含むブログ (60件) を見る

開高健の「輝ける闇」。
開高健の本は好んで随筆を読むのですが、小説を読むのは久しぶりです。
ずいぶん前に「裸の王様・流亡記 」を読んだと思うのですが、あまりの息の詰まる感じでそれ以来小説は避けていた様な気がします。
でもこれは、良かったです。

話としてはベトナム戦争に記者として従軍した作者の体験が元になっているのですが、そこで実際開高健がゲリラの急襲にあって、200人中17人しか生き残らないと言う体験をしてるのです。
そんな話なので最後は凄惨ですが、ベトナムの空気感が非常に伝わるのがすごいです。
路地裏の様子、ジャングル、人々、兵士、食べ物、飲み物、昼や夜、そういったものが、読んでいて五感で伝わってくるようでした。

例えば「ふいに右の茂みで銃声がした。つぎの瞬間左で銃声がした。前でも後ろでも銃声がした。弾音の波はゆらりとひるがえって四方から襲ってきた。私が伏せるより速く凶暴な、透明な波が茂みを疾過した。大尉とミラーが体を伏せ、イーガンが木のかげにとびこんだ。大尉とミラーの臀のかげに私はころがり、必死に顔で木葉を掘った。波はふるえ、唸り、叫びながら走り、息もつかせず第二波、第三波が走り出し、葉が散り、枝が折れ、あたりは弾音と兵たちの甲ン高い叫びにみたされた。来た。これだ。」
普通なら「雨のような銃撃」などという表現で片付けられそうなところですけど、雨は上から降ってくるものだから横から飛んでくる銃撃をそう表現するのは正しくないのかもしれないです。
かといってそれを体験した開高健の表現が本当に正しいかどうかは、自分には良くわからないけど、少なくとも「透明の波」と言う表現は、文章を通して感覚に非常に訴えてくるものがあります。