風雲海南記 (新潮文庫)

風雲海南記 (新潮文庫)

山本周五郎です。話は前に読んだ風流太平記のように、悪人たちの徳川幕府にかかわる陰謀に、主人公が巻き込まれ活躍するという話ですが、読んでみて少し娯楽色が強いかなと思いました。それでも話の構成は良くできていると思います。池波正太郎が「小説は出だしが大切だ。最初の2、3ページでいかに読者を惹きつけられるかで決まる」と言うことを言っていたかどうか記憶が定かじゃないのですが、その点でこの小説の出だしは、主人公の魅力を描き切っていて見事な手法だと思いました。それに山本周五郎の小説は、登場人物の威勢の良いセリフが魅力的だと思いました。江戸っ子の粋の良い会話など読んでいて気持ちいいです。あと、主人公の育ての親である鉄山和尚と主人公のやり取りなども、読んでいると不思議な感じがしました。育ての親とはいえ、主人公には友のような感じの妙な関係なのですが、その二人のやり取りの部分はとてもリアリティがあるような気がしました。

時雨のあと (新潮文庫)

時雨のあと (新潮文庫)

藤沢周平です。この小説、題名を見て読んだことあるんじゃないか?と一瞬思ったのですが、藤沢周平の小説で時雨とかつく題名は結構あることに気付きました。短編集だから、作者お得意の悲哀話ばかりかと思ったら、そうでもなかったです。出だしの「雪明り」は映画「隠し剣 鬼の爪」の話の一部でした。山田洋次が、この短編ともう一つの短編「鬼の爪」を組み合わせて作った映画は、なかなか良く出来ていると思います。そういえば、池波正太郎なんかが、一度発表した短編を下地に長編を書いたり、その設定を使ってちょっと話を変えた別の話を書いているのを読むと、同じ作者の二つの短編を組み合わせて映画のシナリオを作るのもあながち悪くないことかもしれないです。しかし題名が「鬼の爪」か「鷹の爪」かはっきりしなかったので、調べたら「鬼の爪」でした。普通に考えたら「鷹の爪」じゃあ、唐辛子を使った卑怯殺法が想像されますね。